開発記 ふらつく理由

今日はスプーンのアクションのお話です。
水槽でスプーンを泳がせて観察をしていると様々なスプーンの個性的なところや、泳ぎの不思議な点を発見できます。

僕は3D-CAD「Fusion360」を用いてデザインをして、そのデザインデータから「Fusion360」の3D-CAM機能を用いてフライスの加工工程をつくっています。パソコンのモニター上で金型の加工工程をシミュレーションして工程に異常がないことを確認して、CAMデータをNCデータに変換して実際の加工を行う。知らない人がみたら訳のわかならないことだらけと思うのですが、パソコン上でほとんどの作業が完結出来ていることは伝わるかと思います。

上記のように書くと「この人はデジタルでものごとをつくっているんだ・・・」と誤解されそうなのですが、デジタルツールを多用していますが、例えば「Fusion360」で描くデザインは僕のインスピレーションですし、加工工程の刃具の選定や加工順序なども僕が考えて進めなければいけません。デジタルツールは効率化にはなりますが、自動的にモノが出来るなんてことにはならないのです。

様々なスプーンの泳ぎを試してみて形を観察して、自分の泳ぎを実現するための形状を考えてインスピレーションを得る。
「感じて」「考える」というサイクルが開発のスタートから始まっているのです。


そんな僕が初めてつくったスプーン。
何となくみたことのあるようなデザインになっちゃいましたが、ベンドカーブとカップ形状は僕が考えたオリジナルでした。

このスプーン、実はあまりテスト成績は良くありませんでした。
全長 21.3mm 、ウェイトは 1.1g と 1.3g。泳ぎを改善しようと、ベンドカーブとカップデザインを見直したタイプも作ったのですが、やっぱり芳しくなく。。。でも釣果はそこそこで普通に使えるスプーンにはなっていました。


画像は平屋湖フィッシングスポットさんで行った初テストで、最初の一投で釣れた記念のニジマスです。

1stプロトスプーン、どんなところがイマイチだったかと言うと。
・ピッチ周波数が低くて、4.3Hzくらい(目標は 5Hz でした)
・定期的にフラツク

スロービデオのデータをよーく観察して見つけたのですが、上記の二つの欠点が生まれる原因は実は同じものでした。
スプーンの振り子運動が強すぎてロールし過ぎてしまい、オーバーアクションのせいでピッチ周波数は低くなり、更に過剰になるとスプーンが反転してしまいフラツキになっていました。

スプーンの振り子運動は重力の力によって発生し、そこにスプーンの揚力が重なって連成していきます。
振り子運動の発生はスプーンのウェイトと重力で決定するので、どのスプーンもこれをコントロールすることは出来ないのですが、揚力はスプーンのベンドカーブとカップ形状によって変化させることが出来ます。
ここがスプーンづくりの面白さなのですが、僕の作った 1stプロトは揚力過剰の暴れん坊だったのです。


ヒラッ、ヒラッ、ヒラッ、と3回泳ぐとスーッと一回休みが入る。
この一回休みは所謂フラツキの大きなもです。

ヒラッ、ヒラッ、ヒラッ、スーッ、ヒラッ、ヒラッ、ヒラッ、スーッ・・・
平谷湖での実釣ではフックを重くすることで幾分か改善したのですが、完全には治りません。

泳ぎは期待に沿わなかったのですが、魚の反応は良いのです。こればかりが釣れる瞬間もあるのです。
なぜか?
どうやら一回休みの大きなフラツキが魚にとってはバイトチャンスになるようで、良い効果をもたらしたようです。

面白いなって思いました。
僕の考えていた理想の泳ぎと魚の反応は同じではない。
平谷湖の魚が僕に教えてくれました。


この体験を継承して、形状を再検討して生まれたのが「 saji 」です。

「 saji 」を開発する中で様々なベンドカーブとカップ形状を確認し、現在では 1st プロトのダメだった理由も判ります。
スプーンは本当に些細な形状で泳ぎが変化するもので、フラツキに繋がる形状が実はあるんです。
1st プロトはそんなフラツク形状をしていたのでした。

フラツキは魚のバイトチャンスに繋がるスプーンの重要な性能となるのですが、「 saji 」ではこのフラツキを出来る限り排除するように泳ぎを玉成してきました。フラツキは魚に警戒心を与える場合があるのと、何より使い手の操作を反映させることを最優先にしたかったからです。

一定のリトリーブでは安定したピッチを刻む「 saji 」ですが、
アングラーがロッドをほんの少し「ツッ」と操作することで「ヨロッ」と小さくフラツキます。
また、リールを巻くスピードを「スッ」と瞬間的に上げることでもフラツキを与えることが出来ます。

「感じて」「考えて」そして釣る、という僕のコンセプトを具体化する泳ぎとして、この特性を目指しました。
スプーンが誇張するのではなくて、あくまで主役はアングラーである。そんなスプーンをつくりたかった。


「 saji 」はTipsで紹介したように4タイプがあります。

 夏季の表層マイクロスプーンが活躍する時期に開発したせいもありますが、実はこの4タイプのうちで最も釣果を上げているのは「 jak 05」なんです。「 saji 」の中では最も個性の尖ったちょっと使いどころの難しいスプーンなのですが、4タイプのうちで「 jak 05 」がもっともフラツキの入りやすいスプーンで、沈めてデッドスローで引くと顕著にフラツキの特性が出るようになります。
ここら辺の特性がマッチすることがあるようで、釣果に繋がっているようです。

もう一つ、釣果に繋がる特性があることを、先日の 308club さんの釣行の時にマネージャーの會澤さんから教えて頂きました。

「スプーンの後ろに魚が追尾したときに、スプーン周辺の水流が変化してナチュラルにフラツキが入る。」

目から鱗が落ちました。
作り手の僕が意図していなかった特性を持っていたようです。

「 jak 05 」は今の季節はなかなか使いどころがないのですが、夏にはまた活躍してくれると思います。

スプーンは難しい一面もありますが、本当に面白いルアーだと思います。

「 Feel, think, and fish. 」