このTipsではスプーンの一定レンジのコントロールについて解説します。
「 saji 」は安定したピッチで泳いでレンジのコントロールがし易いことを目標として開発をしてきました。
スプーンの釣りの愉しさは、アングラーの意思によってレンジとスピードをコントロールできる点にあるのですが、これは相応に難しいことでもあり、それを習熟していく過程もまた愉しみになっていると思います。

一定レンジをコントロールするためのメカニズム


上の画像はリトリーブした時にスプーンに働いている力を図式化したものです。
アングラーがルアーリトリーブしたとき、引っ張っているのはスプーンに繋がれたスナップになります。
ルアーはスナップに作用した力によって泳がされることになります。

スナップはラインによって斜め上方向に引っ張られています。
この斜め上方向というのは、アングラーとルアーの距離、そしてアングラーのロッドポジション位置(ティップの高さ)によって変わります。
上の図では、斜め上方向に引っ張られている力の角度を「入力角度」として記載しています。

スナップに加わった力はその入力角度によって、水平方向の力(図中の分力 F1)と垂直方向の力(図中の分力 F2)の二つベクトル力に変ります。
アングラーが一定にリトリーブしていたとしても、入力角度が変化することで分力 F1は変化する。つまりリトリーブスピードは変化してしまっています。

具体的な操作として書きますね。
一定レンジを一定のスピードでスプーンを操作するためには、スプーンが手前によって来るのに合わせてティップの高さを下げる動作が必要で、ティップの高さを一定のまま引いているとスプーンが手前に来るに従ってスプーンのスピードは下がってしまうということです。


ロッドティップの高さを一定としたときに、ルアーが手前に寄って来るに従ってどのくらい入力角度が変化するか計算した結果が上の図です。
ルアーが手前に寄って来るにつれて、二次的に入力角度が大きくなっていることが判ります。

一定レンジのコントロール、正直とても難しいです。
僕も自信がありません。ですが、上に書いたような理屈を理解することで完ぺきとはいかないものの、ある程度は一定のレンジを泳がせることが出来ているように思います。スプーンが「手前に来るほどにロッドティップを下げる」、手前に来てスプーンが見えてきたら練習するチャンスで、見えるスプーンの深度が一定になるようにロッドをコントロールしてみましょう。

レンジコントロールの練習方法

見えないスプーンがどのくらいの深さを泳いでいるか?
これはアングラー自身の感覚であり、具体値にすることは出来ません。
例えば「カウントを取って」という方法がありますが、これも感覚でありアングラーによって変わるはずです。

では、この感覚を養うための方法は?
いろんな方が悩まれてテクニックを習得して来られたと思うのですが、ここでは僕の実践した方法をご紹介します。

まず必要な条件ですが、「泳いでいるスプーンが見える」環境であること。
クリアウォーターの釣り場さんで光の反射が弱い釣り座ポジション、出来れば偏光グラスを着用する。

具体的な練習方法について記します。
① スプーンを投げたら出来るだけ速やかに表層のレンジまでスプーンを巻き上げます。
② スプーンが見えたら一定の深さを保つように引いてきます。

上記の①と②を実現しようとすると、おのずとロッドティップのポジションは変化するはず。
手前に来るに従ってロッドティップが低くなっていく、そのスピードもスプーンが遠くにあるときはユックリですが、近づくにつれて二次的に早くなってくるはずです。
このロッドワークがスプーンを一定レンジで引くための操作方法となります。
濁りや深いレンジなどでスプーンが見えない状況であっても、このロッドワークを体得していればおのずとスプーンは一定レンジを泳いでくれるようになります。手前味噌ですが、飛距離が出て揚力が強い「 saji jak 07(0.8g)」はこの練習がとてもし易いです。

ラインの入力角度とスプーンの泳ぎについて

エキスパートアングラーと会話していると「ラインの入力角度の浅深によってスプーンの泳ぎは変わる」という話を聞くことがあります。
一番上の図に示したとおりで、スプーンはスナップにぶら下がって泳いでいるので、ラインの入力角度の変化は分力である F1 と F2 の変化というコトになります。この図に示したメカニズムでは、スプーンに当たる水をコントロールすることは出来ないはずです。

でも入力角度によって泳ぎは変化する。何故か?
物理的に絵にかいてみちゃうと変わらないはずなのですが、変化するんです。

肝は分力 F2 です。
F2 はスプーンの揚力をアシストする力となるのですが、ラインの入力角度によってその大きさは変化します。
また入力角度によってライン自身が受ける水流も変わります。
ラインが受ける水流の変化は、スプーンを引いているスナップに微妙な入力変化を与えます。
特に F2 は入力角度によって大きく変化するため、その大きさによってその影響度合い(ゲイン)が変化します。
入力角度が小さいと F2 は小さくなるのでラインが受けた水流の変化を感受しやすく、入力角度が大きいと逆に水流変化の影響を感受しにくい、ということです。

絵にかいた物理では一定の状況を描けるのですが、実際の釣りにおいては一定の状況なんてないのですよね。
スプーンを引くスナップへの入力は様々な状況で変化して、ラインの入力角度はその一つの要素となります。
考えてみれば水中を泳いでいるスプーンが定常状態になっている頻度は極僅かなのですよね。何かしらの入力変化が過渡的にずっと続いている。

例えば「巻き上げ」や「巻き下げ」というテクニックは、この過渡領域の特性の最たるものですよね。
スプーンのフェイスに受ける水流を過渡的に変化させることで、スプーンの魅力的な泳ぎを引き出す。

「泳ぎのメカニズム」でスプーンが泳ぐメカニズムをまとめています。
定常的な特性はこの理屈で間違いはありませんが、実際の釣りにおいては様々な条件による入力の過渡的な変化に着目する必要があるということで、そしてそこに魚の気持ちが重ならないと釣果を得ることが出来ない。本当に奥深いですよね。
でも、絶対とは言えなくても泳ぎのメカニズムを知識として知っていることは考える愉しみに繋がるはずです。
僕の作っているコンテンツが読んで頂いた方たちの役に少しでも立てば良いなと思います。