トラウトの視覚、聴覚などの特性について、TROUT SPOONS Lab で過去に発表された論文を調査して考察をまとめました。
私たちの視点での考察であるため、一般論とは異なる部分もあろうかと思います。
ここに記載されている内容については、TROUT SPOONS Lab のオリジナルであることをご理解いただき、皆さんの釣りに活かして頂ければと思います。

編集日 2020/10/01

1.視覚について


私たちは眼から視覚情報を得ています。当然ですが魚も同様に眼から視覚情報を得ています。
ピントを合わせてモノをはっきりと見る「視力」、モノの色を認識する「色覚」、暗闇で視覚感度を上げてモノを見る「薄明視」。
ここでは網膜の三つの能力ともう一つ「脳が光を認識する能力=松果体」について、私たちが調査した結果をまとめます。

① 視力

実はトラウトの視力はあまり高くはないのだそうです。釣りをしていると物凄い反応でルアーを目掛けてくる魚を見ることがあるので、「きっと視力は高いのだろうな」と思っていたのですが、意外にも視力は低くて人に例えると 0.1 ~ 0.6 程度の視力とのことです。
トラウトの眼は人間のように正面を向いて二つ並んでいるのではなくて、頭部の左右に独立しています。視野がものすごく広いのですね。
人間は左右の眼の視差によって距離感を得て、立体視しています。これに対してトラウトは左右に眼が離れてしまっているので、視差を用いて立体視をすることが出来るのは正面方向のわずかな範囲になります。調査した論文の中に、トラウトはこの正面方向のわずかな範囲で最も視力が高いという検証結果がありました。ルアーの背後をトラウトが一定の距離で追尾してくるケースがよくあります。トラウトが最もよくルアーを観察できるポジションで、スプーンの泳ぎや色を吟味している状況のようです。
視力は悪そうですが、視野は人間に比べるととても広い。トラウトたちは周囲の状況をよく観察して生活しているのでしょうね。

② 色覚

視力は思ったほどではなかったのですが、トラウトの色覚はすごいです。
網膜には色を判断するためのセンサーとなる「錐体細胞(すいたいさいぼう)」というものがあります。色は光の波長で決まるのですが、光が眼に入った時に「錐体細胞」からの情報を脳がキャッチして光の波長を色として認識する。私たち人間の色表現は自らの脳みそで判断しているもので、人間固有のものということです。
ではトラウトの色覚はどうなのでしょうか?
この「錐体細胞」ですが、人間は三つ「赤、緑、青」の光の波長を認識する細胞を持っています。この三つの細胞の情報を判断して色を認識しています。ちなみに人間以外の哺乳類は二つ、「赤、青」の二つしか持っていないのだそうです。色を認識するセンサーが少ないということは、認識できる色の種類が少なくなるということです。
これに対してトラウトは四つ「赤、緑、青、紫外線」の光の波長を認識する細胞を持っています。つまり人間よりも多彩な色を認識することが出来る。色を認識する分解能が人間よりも優れているということです。
エリアトラウトフィッシングをやっていると、ルアーの色で釣果が大幅に異なることがあります。また好まれる色の幅も狭かったりします。これはトラウトの色の分解能が高いことが理由なのかも知れません。

③ 薄明視

この能力もトラウトは高いのだそうです。
網膜には色を認識する「錐体細胞」と、もう一つ光の感度センサーとなる「桿体細胞(かんたいさいぼう)」があります。「桿体細胞」は光量を認識する高感度センサーで、薄暗くなっても眼が見えるのは「桿体細胞」の能力によるものです。カメラでいうISO感度といえば理解しやすいでしょうか。
明るいときには「錐体細胞」が働いて光の波長から多彩な色を認識する。暗くなってくると「桿体細胞」が働くようになって、色彩ではなくシルエットとしてモノを見るようになるようです。人間も、暗くなると色彩は失われていってモノトーンの明暗の世界になりますよね。この明暗の世界を認識するのが「桿体細胞」の能力なのです。トラウトの「桿体細胞」は人間よりも高感度であるが故に、薄明視の状況での視覚が高いということです。
夜、暗い中でも魚は釣れます。むしろ釣れ易くなる場合もあります。これは色覚のセンサーの能力が薄れて「明暗」の認識に切り替わるため、色ではなくてシルエットや「明暗」のトーンで獲物を認識するためで、色覚よりも明暗のトーンの方が分解能が低いために釣り易くなるものと考えられます。

④ 松果体

トラウトの「第三の眼」、「松果体(しょうかたい)」です。
「松果体」というのは脳内にある内分泌器で人間も持っています。左右の眼の視床体に挟まれた左脳と右脳の間、トラウトでいうと頭頂部の眉間の位置にあります。多くの動物の概日リズムをコントロールするホルモン、「メラトニン」を分泌して生活のリズムをつくっています。
人間の「松果体」は脳内にあって光の受容性は退化していますが、トラウトの「松果体」はその一部である「上生体」が頭骨の直下に位置していて光の認識が出来るのだそうです。光量だけでなく、光の波長によって脳への伝達信号が変化するという検証結果もあり、光の波長=色を認識する能力も持っているようです。トラウトの「松果体」は私たちが想像する以上に高い機能を持っているものと思われます。
釣りをしているときにまれに目撃するのですが、上空に大型の鳥が飛来してきたり、突然生まれた雲の影に怯えて、トラウトたちが一斉に退避行動をとることがあります。トラウトの視力は高くはないそうなので、脳に直結した「松果体」で上空認識をしているのかも知れませんね。

2.聴覚について


人間には耳があって、そこで音を聞いています。でもトラウトには耳は見当たりません。
トラウトはどのようにして音や振動を認識しているのでしょうか?その疑問について私たちが調査した結果をまとめます。

① 音の認識

トラウトには人間の耳のようなものはありませんが、頭の中に「内耳」が左右で一対あります。魚は、うきぶくろ(鰾)が人間の鼓膜の代わりの機能をしていると言われていますが、トラウトの実験調査で、うきぶくろ(鰾)の機能を無くしても音の認識はあまり変化がなかったという検証結果もあったので、トラウトの音の認識は頭骨で受けた振動を直接内耳で感じ取っている、骨伝導によるものと思われます。
非圧縮性の水の中では振動は驚くほど速く伝達され、その速度は空気中の5倍。このため音が伝達する距離も空気中よりもかなり広いそうです。トラウトは音に反応するのですが、同じ音を複数回聞くと慣れてしまって反応が収まり、そしてしばらく時間を空けて同じ音を流すとまた反応する。また長時間同じ音を聞いていると反応は徐々に収まり慣れてしまう特性を持っているそうです。
音源方向の知覚もできます。左右の「内耳」によって音の方向を判断するようで、左右方向だけでなく音源の角度方向についても認識した検証結果がありました。トラウトは音の認識に対してとても高い能力を有しているようです。
ルアーの着水音に反応するトラウトが多いのは、音の認識によるもののようです。また、スプーンやプラグのタイプ違いによってトラウトの反応が変わるのは、視覚的な要素に加えてスプーンやプラグが泳ぐときに発生している音の要因もあると思われます。

② 振動の認識

トラウトの特徴的な器官に「側線」があります。「側線」とは体側にある水圧や水流を検知する器官です。
「側線」は魚の特徴的な器官なのでたくさん調査されていました。「側線」は「内耳」と異なり、遠くの振動を検知する能力は持っておらず、低周波の振動を認識しているそうです。振動を検知できる範囲は魚体の長さくらいまでの至近距離で、器官の構造は振動ではなくて水圧の変化=水流を認識するセンサーとなっています。遊泳しているとき、あるいは流れの中で泳いでいるとき、使用している筋力のレベルと「側線」で検知する水流を比較判断して、水の流れの強さや方向、自分自身のスピードなどを認識するために必要な器官が「側線」と思われます。
スプーンやプラグが泳ぐことで発生する水の振動は、トラウトの至近に近づかないと「側線」には認識されそうにありません。遠くにいたトラウトがスプーンに急接近する場合がありますが、これは「側線」よりも、内耳の「音」の認識の方が影響しているように思われます。