独り言 スプーンづくりのきっかけ

なぜスプーンをつくり始めたのですか?
そんな問いかけを受けるときがあります。

大きな企業に就職して永く勤めて、ある程度は社内で認められる存在になることが出来ていたのだから殊更ですよね。
僕のインスタグラムやこのブログを読んでいる人も「おかしな奴だなぁ・・」と不思議に思われている方もいるかも知れません。

インスタグラムのプロフィールに記載していますが、僕はもともとは自動車会社の開発エンジニアをしていました。

18歳で入社して自動車の運動性能についての研究実験を行ってきて、20代後半に営業職出向で特約店さんに3年半お世話になった以外は、退職した55歳まで、ずっと研究実験部門に在籍していました。
40代半ばまでは直接クルマの開発を行うエンジニアとして働き、それ以降は管理職として職場のマネジメントを行ってきました。


そんな僕が会社を辞めてスプーンをつくろうと決心したのは、2年程前のこと。

50代になってから、
定年後の働き方を考えるなかで、65歳という企業の定年制限の年齢までに自分が出来ることは何か?
残った時間を自分の体力と能力で、どれだけ会社に貢献することが出来るのか?
そんな風に自分が取り組んできた仕事を振り返り、成せたこと、成せなかったこと、成さねばならぬことをひとつひとつ考えてみました。

過去を振り返って自分がもっとも自分らしくて愉しかった仕事とは何か?
いつの間にか上がってしまった職位、その責任に追われることが仕事になってしまっていないか?
僕は人生を愉しめているのか?

そんなことを考えて、自分の気持ちを整理して、55歳を節目として会社を辞めて独立しようと決意をしました。


独立してなにをやるか?
自分の過去の経歴を活かした仕事をすることも考えたのですが、それはそれでお世話になった会社から離れることは出来ず、自分らしさは薄まってしまうように思いました。
そんな悩みの中で過去を振り返り、自分が最も愉しいと感じてきたのは「ものづくり」であったことを実感し、ならば大好きな釣りの道具をつくろうと思ったのです。研究実験という仕事に永く携わったことで養った論理的な思考、開発のプロセスや考え方、そういったことをスプーンづくりに転用することで、より豊かで愉しい道具を提供することが出来るのではないか。自分の特技や経歴を活かすことが出来るのではないか。
そしてそれは自分の体力が続く限り、定年という期限を持つことなく働くことに繋がるのではないか。

少子高齢化の時代の中にあって、自分が生きる道を見つけ、決心をしたわけです。


スプーンを選んだのは、シンプルな形状ながら泳ぎのタイプは様々で創作物としてとても奥が深い、そして何より僕が最も好きな釣りのスタイルだったからです。

スプーンはリトリーブしなければ泳ぎませんし、沈んでしまいます。アングラーの操作が重なることで機能する釣り道具なのです。
そしてスプーンならば僕一人でモノづくりを具体化することが出来る、僕自身の考えを表現することが出来る。
この道具を突き詰めていきたいと思いました。


商売になるのか?と考えると不安はいっぱいですが、多様化する社会の中で僕のような人間を受け入れてくれる人たちもいるように思います。
多くの人に認めてもらうことは難しいかも知れませんが、僕の考え方やトラウトスプーンズラボのコンセプトに共感して、僕の作ったスプーンで釣果を得て喜んでくれる人がいれば嬉しい、そんな気持ちでモノづくりを進めています。

「好きこそものの上手なれ」
「成せばなるなさねばならぬ何事も」

僕の好きな言葉です。これまでもこの二つの言葉に勇気づけられ、助けられてきました。
スプーンビルダーとしては56歳のルーキーですが、自分の道を信じて努力を重ねていきます。
トラウトスプーンズラボ、これからもよろしくお願いします。

「 Feel, think, and fish. 」