編集日 2020/10/01
TROUT SPOONS Lab のスプーンづくり
私たち TROUT SPOONS Lab の開発を区分すると「コンセプトワーク」「デザインと設計」「試作」「スイムテスト」「フィールドテスト」の五つの過程に分類できます。狙った特性が得られるまで、このサイクルを繰り返してスプーンを完成させていきます。
私たちは「感覚」と「事実」をベースとした「論理的」な開発を大切にしています。
新たなスプーンをイメージし線を引いて形を描き、緻密なベンドカーブとカップの形状を検討し、加工機を用いて型を削り出し、真鍮板をプレスして試作品を完成させ、そしてスイムテストで特性を評価してフィールドテストで灰汁だしをする。開発の中で「感覚」として捉えたことを「事実」として整理し、「論理的」に捉えてスプーンづくりを探究する。「感覚」と「事実」が紐づけられたデータは私たちの強みであり、「論理的」な思考は開発の精度とスピードを高めることに繋がります。
「感覚」を「事実」として捉えて「論理的」に開発する。
この開発スタイルが私たち TROUT SPOONS Lab のスプーンづくりの特徴であり、そのプロセスで得られた情報は私たちの財産になっています。
1.コンセプトワーク
「小さくてよく飛んで表層を泳いでくれたら」や「もっと細かく早く動いてくれたら」など、アングラーの欲求はたくさんあると思います。
コンセプトワークでは実際にフィールドに行って魚を釣り、その中で生まれる欲求を蓄えていきます。
この蓄えられた欲求こそが、新たなスプーンのベースコンセプトとなります。
粗削りなベースコンセプトを基に並行して様々なスプーンをベンチマークし、私たちの欲求を具体化してコンセプトを固めていきます。
2.デザインと設計
イメージを具体的なカタチに変えていきます。
TROUT SPOONS Lab では 3D-CAD を用いて、デジタルツールの中で外観形状と泳ぎの肝になるベンドカーブ&カップ形状をデザインしています。
CAD上のデザインから表面積を求め、素材となる真鍮の板厚と比重から製品化したときのウェイトを算出して基本となる諸元を決定します。
諸元が決まったら、狙った泳ぎを実現するためのベンドカーブとカップの形状をイメージして、CAD上のスプーンを曲げていきます。この形状はスイムテストで考察を行うために複数の案を作成します。
作成したスプーンの3Dデータから、素材となるブランクの切り出し図面と、スプーンを曲げるための凹型と凸型のプレス型図面を作成します。
また、この図面をもとに機械加工用を行うためのCAMデータを作成します。
3.試作
設計図面から、スプーンの素材となるブランクとスプーンを曲げるための型をつくります。
スプーンは小さなものなのでこの工程での加工精度が性能に影響します。TROUT SPOONS Lab ではCNCフライスを用いて加工を行うことで、3D-CADのデータを変換することなくダイレクトに試作品に反映させています。
ブランクはスプーンの素材となる板厚の真鍮から削り出します。
そしてブランクを成型するプレス型は、アルミブロックから「粗削り」「中削り」「仕上げ削り」の複数回の工程を経て削り出していきます。
ブランクをプレス型で挟み、プレス機で加圧成型することで試作スプーンが完成します。
4.スイムテスト
完成した試作品をガラス水槽で泳がせて特性を確認します。
泳ぎの特性を阻害する外乱を無くすため、完全な止水となる水槽の中でテストを行っています。
ガラス水槽にはカメラがセットしてあり、 XYZ の三方向から泳ぎを撮影しています。
引く速度を変えて複数回の撮影を行い、この撮影データをスロー再生して泳ぎを確認しデータを整理します。
「スイムスピードに対するピッチのリズム」などの定量的に捉えられる特性は数値化して比較しますが、泳ぎのタイプや強さなどの特性についてはスロー動画そのものをデータとして扱い、比較観察することで泳ぎの特性を見極めていきます。
スプリットリングやフックなどの仕様についても、大きさや重量の異なるものを装着して泳ぎへの影響を確認し、セットするスプリットリングとフックの仕様を決定します。
狙った特性が得られなかったら、デザインと設計に戻ってやり直します。
5.フィールドテスト
スイムテストをクリアしたらフィールドに出て実際の使い勝手とトラウトの反応を確認します。
トラウトの特性はエリアによって異なるため、タイプの異なる複数のエリアに出向いて確認する作業を繰り返します。
また人為的なプレッシャーを要素として加えるため、アングラーの多い土日にテストを行っています。
水槽でのスイムテストでは確認できない「キャストのし易さ」や「レンジコントロール性」、「流れの中でのコントロール性」を確認します。これに加えて、「水流の影響による泳ぎの乱れ」や「ラインの太さやタイプの影響」などをチェックしています。釣果はもちろんのこと、トラウトたちのスプーンへの反応を観察して出来栄えを確認していきます。
フィールドにて課題が見つけられた場合は、その具体的な事象を記録して改善策を練っていきます。現場にてハンドワークで改善の方向を探る場合もありますが、再現性を可能な限り高めるために「デザインと設計」に戻って型を削りなおすのが基本的な進め方です。
フィールドテストで入念にチェックして、問題がなければ製品化OKと判断します。
製品化OKの判断後もフィールドテストを継続し、使い方や特徴などのTipsを蓄えると共に、次の開発に向けたノウハウを得ていきます。